江別市セラミックアートセンター 2023/10/4

私は間に合わなかった。仕事を辞めて大阪から帰ってきた私を見て、母は自分の子供とは認識できなかった。
母の認知症と身体の衰えは急速に進み、家族の介護はすぐに行き詰まり、家から入院へ、そこから施設へと進んだ。
医療と福祉の関係の方たちには、感謝の言葉しかない。
母は別人のようになったが、しばらく穏やかに暮らしてくれれば、それでありがたい。

 

ここ何か月間で、一か所だけ、江別市にあるセラミックアートセンターに行くことができた。
今日はそれを記録しておこう。

 

広々とした敷地に赤レンガの大きな館が悠然と建っている。

 

 

小森忍(1889-1962)の作品が見たくて、江別市セラミックアートセンターを訪ねた。
中国宋代の陶磁器を理想として、陶磁器研究に一生を捧げ、日本の陶磁器生産、陶芸界に大きな足跡を残した方として知られている。
2年ほど前だったか、収集品の図録(小森忍の陶磁器Ⅲ 江別市セラミックアートセンター)が発行されたときに、送って頂いたことがある。
そこには、様々な表情を見せる作品が展開されていて、うわぐすりの魔法を使っているのかしらん、と思った覚えがある。

 

 

館内の空間もゆったりとして、教室工房や窯室も備えた、素晴らしい施設だ。
北のやきもの展示室というエリアの1室が小森忍の記念室となっている。
ありがたくも撮影してもよいとのことで、非常に嬉しい。

 

 

中国古陶磁の研究から生まれた様々な技法を用いた作品が並んでいる。
一見するとまとまりなく、バラバラに見えてとまどう。図録を見たときも、同じ感想を持った。
しかし、これらの作品が一人の陶芸家の作品というより、窯業生産という大きな目的のための研究成果であると見るといろいろな作品があることが理解できる。

 

 

それにしても、どのような風にも出来てしまうんだねぇ。

作品名を並べるだけでも多彩な内容がうかがわれる。

 

辰砂花入、均窯手盃、砧青磁瓢瓶、瑠璃釉花瓶、

海鼠釉鉢、蒼翠宝石釉直口瓶、三彩釉灰皿、瑠璃宝石釉直口瓶
飴釉抜絵文鉢、瑠璃銀彩香合、白地黒掻落しアイヌ文壺 

 

 

 

中国陶磁の研究にとどまらず、日本人が日常につかえる陶磁器を創作探求されておられたのだろうか。

和風というでもなく、洋風というでもない。すっきりしていながら、凝縮されたものが詰まっている。「民芸」として有名になった器たちとはちょっと違う感じ。
器の肌がとてもきれいで、嫌みのない味わいと風情がある。
こんな器を使ったら、日常生活が豊かになりそうだ。
しかも使いやすそうで、長く愛用できるだろう。

 

 

あぁ、佳いものを見たねぇ、すっきりした。介護やら入院・入所準備やらでなんだかしんどかった。

久しぶりで素晴らしいやきものを鑑賞できて、気が晴れた。
図録(「小森忍 日本陶芸の幕開け」2009年)を一冊求めたので、帰ってからじっくり楽しむことにしよう。