胡人俑の魅力に囚われてしまった。
この俑の前に立つと、今にもこちらに向かって迫ってきそうなちょっと怖い感じがする。
最初に迫力ある表情に注意が向けられるが、少し引いて見ると、本当に着衣の下に生身の人体が存在するかのような動き、着衣のゆれなどがあったかのような、錯覚を覚える。
胡人俑たちの眼差しの鋭さにも、惹きつけられる。
多くの俑が何かを注視しているようにみえる。
視線の先が駱駝や馬であれば、安心して眺めていられるのだが、こちらをにらみつけているような俑もある。何を見ているのか、何をしているところだろう。
いっぽう優しく、涼やかな眼差しを向けてくれる俑もある。女性の俑たちだ。
昨日のイブニングレクチャーでは、これらの女俑も、展覧会の見どころのひとつであるという解説をいただいた。
全くこれらは素直に美しいなあ。
何とも優雅で華やかな姿、おしゃれな着こなし。髪型、お化粧、身に着けているものをひとつひとつ丁寧に見てゆくのも楽しい。
唐代美人のお顔に作られているのだろうけれど、けっこうそれぞれ違って見えるので、ひょっとしたら、モデルがあってその人に似せて作ったのかもしれない。
女俑に限らず、胡人の身なりもとても凝っていておしゃれだ。
帽子、上衣、ベルト、ポシェット、ブーツの詳細まで彩色されていて、粋な着こなしに目を見張る。裏地やふち飾りなどの美しい彩色や文様を効果的にのぞかせている。
造形・ファッション・当時の人々の暮らしとか、いろいろと味わえる体験だ。
駱駝と俑のセットで2体が作り出す緊張感ある作品も素敵だ。
前裾をまくり上げた朱色のパンツ姿の俑は、個性派ぞろいの中にあっては、比較的にシンプルでけれん味がなく、一生懸命駱駝を牽いている。
駱駝のほうはちょっと不満げで、彼を睨んでいるようにも見える。
男と駱駝の力強い綱引きの場面が目に浮かぶ。
夜間開館に(午後7時まで)東洋陶磁美術館を訪ねるのは初めてである。
閉館したのちは、映画「ナイトミュージアム」のように俑たちがにぎやかに騒ぎ出すのではないかと心配である。
それこそが、これらの俑を作った人たち、俑を主人とともに墓におさめた人たちの願いであったかと空想している。