伝説の柴窯(さいよう)とは?
これからじわじわと、わかってくるだろうと、のんきに構えていたところ、一週間もたたぬうちに、期せずして、私の理解を深めてくれる著作に出会った。
そう、ジュンク堂書店でさんざん時間をかけて探し物を見つけた後、疲れてレジ近くの棚の前をぼうっと眺めていたら、誰かが私のために並べてくれたかのように、目の前に置かれていた。
「幻の至宝 柴窯発見」(對中如雲著 祥伝社 平成18年発行)
著者は知人から託された一つの青く美しいやきものの正体を解き明かそうとする。
はたして伝説の柴窯の至宝であるのだろうか。
八年もかけた研究の過程なのであるが、歴史ミステリ仕立てになっていて、陶磁器に興味のない人でも楽しく読み進めることができる。
内容の面白さに加えて、私のような初心者にもわかりやすく書かれているので、一回目は大筋を追って一気に読み終えた。
今度はもう一度丁寧に、細部をたどりながら読み直しはじめている。
というのも、この本は、その問題のやきもの「青百合花瓶」がどこで生まれたものなのか、という本筋もさることながら、柴窯とそれに続く中国宋代の名窯についての手引書として読むことができて、私にはありがたいのである。
そもそも「柴窯」とは最高の美しさを讃えられ、奇跡とまでいわれている名窯でありながら、陶片すら出てきていない幻の窯であること、が呑み込めた。
これだから素人はいいのである。そのように有名なことでも知らずにいるから、どんどん面白くなる。
しばらくの間、青く美しいやきものの世界に浸って現実から距離をおくことができそうだ。